「就業規則は作ってあるけど、数年前に作ったっきりだ…」
「うちのスタッフはみんな良い人だから、特に問題はないだろう」
歯科医院の院長先生の中には、このように考えている方もいるかもしれません。しかし、就業規則は一度作ったら終わりではありません。法律の改正や社会の変化に合わせて、定期的に見直して更新しないと、思わぬ**「落とし穴」**にはまってしまうリスクがあります。
就業規則の放置は、単なる事務手続きの不備ではなく、法的なリスクやスタッフの不満に直結します。今回は、歯科医院が就業規則を放置することで起こり得る怖い落とし穴と、その対策を解説します。
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#### 落とし穴1:法改正に対応できず、知らず知らずのうちに法律違反に
労働関連の法律は、働き方の変化に合わせて頻繁に改正されています。古い就業規則を使い続けていると、最新の法律に準拠していないため、知らず知らずのうちに法律違反を犯してしまう可能性があります。
**【具体的なリスク】**
*残業時間の上限規制: 2019年に中小企業にも適用された時間外労働の上限規制(月45時間、年360時間など)が、就業規則に反映されていないと、労働基準監督署の調査で指摘されるリスクがあります。
*有給休暇の年5日取得義務: すべての事業主は、年10日以上の有給休暇が付与されるスタッフに対し、年5日を確実に取得させる義務があります。このルールが就業規則に記載されていないと、法律違反となります。
*同一労働同一賃金: 正社員と非正規雇用スタッフの待遇差に関するルールが、就業規則に明確に記載されていないと、スタッフから訴えられる可能性があります。
**対策: 法律の改正情報を常にチェックし、就業規則を定期的に見直しましょう。自力での対応が難しい場合は、専門家である社会保険労務士に相談するのが最も確実です。
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#### 落とし穴2:スタッフとのトラブルが解決できない
就業規則は、スタッフとの間で起こり得るさまざまなトラブルを解決するための「ルールブック」です。ルールが曖昧だったり、古かったりすると、院長先生の対応が「不当」と見なされるリスクが高まります。
**【具体的なリスク】**
*懲戒処分の無効: 遅刻や無断欠勤を繰り返すスタッフに対し、就業規則に定められていない懲戒処分(減給、解雇など)を行うと、その処分が無効と判断される可能性があります。
*ハラスメント問題の悪化: パワハラやセクハラに対する明確な方針や相談窓口が就業規則に記載されていないと、問題が表面化した際に適切な対応ができず、事態が悪化してしまいます。
*退職金のトラブル: 退職金制度があるにも関わらず、その支給要件や金額が就業規則に明確に記載されていないと、スタッフとの間でトラブルになる可能性があります。
**対策: 懲戒処分やハラスメント、退職金など、トラブルになりやすい項目は、就業規則に明確に記載し、スタッフ全員に周知しましょう。
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#### 落とし穴3:スタッフの不信感を招き、離職率が上がる
就業規則が放置されていると、スタッフは「この医院は、私たちのことを真剣に考えてくれていないのでは?」と不信感を抱くようになります。
**【具体的なリスク】**
*不公平感の増大: 評価や給与のルールが曖昧だと、「なぜあの人は給料が高いんだろう?」といった不公平感がスタッフの間に広がり、人間関係が悪化する原因となります。
*働く目的の喪失: どのような行動が評価され、どうすれば昇給できるのかが不明確だと、スタッフは仕事へのやりがいを見出せず、モチベーションが低下してしまいます。
**対策: 就業規則をスタッフ全員で共有し、院長先生の「想い」を伝える場を設けましょう。就業規則を「守るべきルール」としてだけでなく、「より良い職場を作るための共通の指針」として活用することが大切です。
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#### まとめ:就業規則は「安心」と「信頼」の証
就業規則は、医院とスタッフ双方を守るための重要な存在です。
*法的なリスクを回避する**
*トラブルを未然に防ぐ**
*スタッフからの信頼を得る**
これらのメリットを享受するためにも、就業規則を放置せず、定期的に見直して最新の状態に保つことが重要です。自力での対応が難しいと感じたら、専門家の力を借りることも視野に入れ、安心できる労務管理を目指しましょう。
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