「まさか、うちの医院に限って…」
そう思っていても、労務トラブルはいつ何時、どんな歯科医院でも起こり得ます。給与の未払い、不当解雇、ハラスメントなど、ひとたびトラブルが起きてしまうと、解決には多大な時間、費用、そして精神的なエネルギーを費やすことになります。
しかし、これらのトラブルの多くは、日々の労務管理を正しく行うことで未然に防ぐことができます。今回は、歯科医院が特に注意すべき労務リスクとその対策を、チェックリスト形式でご紹介します。
1. 給与・残業代に関するリスク
給与計算や残業代の支払いは、スタッフとの信頼関係を築く上で最も重要な部分です。計算ミスや未払いは、スタッフの不満に直結し、労働基準監督署への申告に繋がることもあります。
【チェックリスト】
残業代の計算は正しく行われていますか?
1分単位で正確に計算し、全額支払っていますか?
歯科衛生士や受付などの職種に関わらず、法定の割増賃金率(時間外労働25%、深夜労働25%、法定休日労働35%)を適用していますか?
みなし残業代(固定残業代)制度を導入していますか?
雇用契約書や就業規則に、固定残業代に含まれる労働時間数、金額、それを超えた場合の精算方法を明確に記載していますか?
固定残業代は最低賃金を下回っていませんか?
給与明細に控除額の内訳は記載されていますか?
健康保険、厚生年金、雇用保険、所得税など、控除項目の詳細が明確になっていますか?
【対策】
勤怠管理システムを導入し、手作業による計算ミスを防ぐ。
給与計算の専門家である社会保険労務士に相談し、計算方法の妥当性を確認する。
2. 労働時間・休日に関するリスク
「労働時間が曖昧」「有給休暇が取れない」といった不満は、スタッフの定着率を下げる大きな要因です。
【チェックリスト】
労働時間を正確に記録していますか?
タイムカードや勤怠管理システムで、出勤時間から退勤時間までを正確に記録し、管理していますか?
業務開始前の準備時間や終業後の片付け時間も、労働時間としてカウントしていますか?
年次有給休暇の取得義務を果たしていますか?
継続勤務6ヶ月以上のスタッフに有給休暇を付与していますか?
毎年10日以上の有給休暇が付与されるスタッフに対し、年5日は確実に取得させていますか?
休日出勤のルールは明確ですか?
休日出勤の振替休日や代休のルールが就業規則に明記され、運用されていますか?
【対策】
労働時間や休日に関するルールを就業規則に明確に記載し、スタッフに周知する。
有給休暇の計画的な取得を促すため、事前に取得希望日をヒアリングする。
3. ハラスメント・人間関係に関するリスク
パワハラ、セクハラ、マタハラといったハラスメントは、スタッフの尊厳を傷つけ、職場環境を著しく悪化させます。
【チェックリスト】
ハラスメント対策の方針を明確にしていますか?
院長やスタッフへのアンケート、研修などを通じてハラスメント防止に取り組んでいますか?
ハラスメントに対する院の方針を就業規則に明記していますか?
相談窓口は設置されていますか?
外部の専門家(社会保険労務士など)や信頼できるスタッフを相談窓口に設定し、誰でも安心して相談できる環境を整えていますか?
普段からスタッフとのコミュニケーションは取れていますか?
院長先生がスタッフ一人ひとりと向き合い、日頃からコミュニケーションを取ることで、人間関係のトラブルの芽を摘んでいますか?
【対策】
ハラスメント防止のための研修を定期的に実施する。
院長先生が率先してコミュニケーションを活発化させ、風通しの良い職場環境を作る。
まとめ:リスク管理は「安心感」を生む投資
労務リスクへの対策は、単なる「守り」ではありません。スタッフが安心して働ける環境は、離職率の低下、モチベーションの向上、そして患者様へのより良いサービス提供に繋がる、未来への投資です。
このチェックリストを参考に、自院の労務管理が適切に行われているか、今一度確認してみてください。もし不安な点があれば、専門家である社会保険労務士に相談することも一つの有効な手段です。
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